パンの香りや味に1番影響を与える小麦粉。
その粉を自分の手で挽く“自家製粉”にこだわるベーカーたちが全国に少しずつ増えています。
石臼の音に耳を澄ませながら、香りと向き合う日々。
時間も手間もかかるけれど、その先にしか生まれない味があります。
今回は、自家製粉に情熱を注ぐ8つのベーカリーに、始めた理由やこだわり、これからの展望を聞きました。
目次
🥖Bio Complet(神奈川県)|全粒粉の香りに衝撃を受けた
🥖パン屋 kotubu(大阪府)|地元の小麦の美味しさに気づいた
🥖山の中の小さなドイツパン工房Hirose(岐阜県)|挽きたての粉は香りが違う
🥖麦秋至(むぎのときいたる)(兵庫県)|小麦の声を聞きながら
🥖SHINTATE BAKE STORE(石川県)|この麦の味を自分の手で
🥖BREAD IT BE(神奈川県)|粉と向き合うほどに、パンは自由になる
Bio Complet(神奈川県)
「全粒粉の香りに衝撃を受けた」──サラリーマンからパン職人へ
▲パンや麦への情熱が尽きないBio Complet・菅野さん
「出張先で食べた全粒粉パンがあまりに美味しくて。
“こんなお店をやりたい”と思ったんです。」
元々はマクドナルド店長だったという異色の経歴を持つ、Bio Completの菅野さん。
現在は風味の良いカナダ産のオーガニック玄麦を自家製粉し、しっとりと香り高いパンを焼き上げています。
▲使う玄麦はオーガニックにこだわる
「袋ごとに品質が違うのは大変ですが、
それも自家製粉の面白さ。毎回、粉と会話している気がします。」
人気はフォルコンブロートと全粒粉食パン。
「今後は、オーガニック自家製粉だからこそできることにも挑戦してみたいですね。」
ムール ア・ラ ムール(神奈川県)
「日本の小麦を食べよう」──志を受け継ぐ湘南小麦の香り
▲小麦の香りがしっかり感じられる店内
ムール ア・ラ ムールの本杉正和さんは、
2007年にブノワトンが立ち上げた“湘南小麦プロジェクト”の一員。
師である高橋シェフの想いを受け継ぎ、国産小麦の魅力を伝え続けています。
「当時は“国産小麦は製パンに向かない”と言われていました。
でも、挽きたての香りこそが最大の個性なんです。」
▲麦刈りを地元の小学生と行うなど、食育にも力を入れている
地元の農家と協力し、石臼で丁寧に製粉。
「気候変動や後継者不足など課題は多いけれど、“香るパン”を次の世代へつなげたい。」
おすすめは、香ばしさが際立つ石臼バゲット。
ひと口で、湘南の風を感じるような香りが広がります。
📝コラム - 自家製粉ってどこが違うの?
パン作りに使う小麦粉は、挽かれた瞬間から酸化が始まります。
つまり、粉にも“鮮度”があります。
自家製粉は、必要な分だけその場で挽くことで、香りや甘みを最大限に引き出せます。
口に含んだときに感じる、ほんのりとした草のような香ばしさや、噛むほどに広がる甘さは、挽きたての小麦ならでは。
市販粉の安定感とはまた違う、素材そのものの息づかいが味わえるのが、自家製粉の魅力です。
パン屋 kotubu(大阪府)
「地元の小麦の美味しさに気づいた」──香りが導いた自家製粉
▲パン屋 kotubuの山内さん夫婦。2人でパンを焼く
パン屋 kotubuの山内洋明さんが自家製粉を始めたのは、
地場産の小麦を使ったパンとの出会いがきっかけ。
「香りと味がまるで違って、これは自分でもやってみたいと思いました。」
農薬不使用の地元産玄麦を、手間を惜しまず製粉している。
▲地場産かつ農薬不使用の玄麦を仕入れるのは困難を極める
「安定して仕入れるのは難しいですが、その分、毎年の小麦に“その土地の個性”が出ます。」
人気は全粒粉50%入りのカンパーニュ。
「いつか100%自家製粉で、“kotubuらしいパン”を焼くのが夢です。」
レピジャポネ(神奈川県)
「見て楽しいお店にしたかった」──石臼から広がる温もり
▲明るい店内には石臼が動く音が広がる
「店頭にかわいい石臼を置いて、見て楽しいお店にしたかったんです。」
意外な理由を話すのは、レピジャポネの小柳さん。
ゆっくり回る石臼で、農薬不使用の佐賀県産の小麦を自家製粉しています。
製粉後はふすまをふるいにかけ、詰まりを防ぎながら手作業で整える。
「時間はかかりますが、自分で挽いた粉には温かみがあるんです。」
▲違いが引き立つ自家製粉の全粒粉を100%使ったパン
全粒粉100%のパンは、噛むほどに香ばしさと甘みが広がる。
「当店では、全粒粉のみ自家製粉です。外皮まで食べる全粒粉だからこそ、農薬や化学肥料を使わないで栽培された小麦を使っています。
これからは全粒粉パンの種類をもっと増やしたいですね。」
📝コラム - 石臼で挽く理由は?
自家製粉にこだわるパン屋の多くが選ぶのは、ゆっくりと回る石臼。
熱を極力発生させないことで、小麦の香りを壊さずに粉にできます。
石と石が擦れる音の中で、小麦がふわりと香りを放つ。
石臼で挽いた粉を使うと生地はやわらかく、香ばしさは奥行きを増します。
効率よりも“香りの豊かさ”を優先する。
そんな選択が、パン職人たちを石臼へと向かわせます。
山の中の小さなドイツパン工房Hirose(岐阜県)
「挽きたての粉は香りが違う」──自然とともに歩むパン作り
▲ひっそりと佇む工房
岐阜の山あいに佇む山の中の小さなドイツパン工房Hirose。
店主の廣瀬さんは、自然のリズムに合わせて麦を挽く。
「全粒粉を使いたくて始めましたが、挽きたての粉は格別。
焼き上がっても香りがしっかり残るんです。」
▲シンプルなパンだが改良し続けている
麦粒の乾燥が不十分だと挽けないため、天日干しで仕上げる。
また、国産のオーガニックのものを集めるのにも苦労するという。
北海道産・埼玉産・オーガニックライ麦など5種類の麦を製粉していて、おすすめは全粒粉100%のサワードウブレッド。
自然の恵みをそのまま閉じ込めた一品だ。
麦秋至(むぎのときいたる)(兵庫県)
「小麦の声を聞きながら」──地域とともに歩む自家製粉
▲生産者の顔が見える素材にこだわる麦秋至の大石さん
「生産者と直接話すことで、パンの背景が見えてくる。」
そう語るのは麦秋至(むぎのときいたる)の大石旭さん。
▲映画の世界のような可愛らしい店舗
農薬や化学肥料を抑えたオーガニック小麦を、低速の石臼でじっくり挽き、小麦本来の香りを閉じ込める。
「酸化を防ぐことで、甘みやナッツのような風味がそのまま残ります。」
おすすめの全粒粉の食パンや全粒粉ハースブレッドに使う素材は小麦・水・塩・酵母のみ。
シンプルな配合だからこそ、小麦の個性が際立つ。
「地域の小麦を自家製粉し、その土地の味や文化をパンで伝えたい。
食べることを通して、地域の風景を未来につなげていきたいです。」
📝コラム - 香りの違いを感じてみよう
自家製粉のパンは、香りで楽しむ食べ物と言っても過言ではありません。
小麦の品種ごとに香りが異なり、
たとえば「春よ恋」は甘く華やか、「キタノカオリ」はナッツのように香ばしく、「ゆめちから」はしっかりと力強い風味。
トーストして立ちのぼる香りを比べてみると、その違いがよくわかります。
もしお気に入りのパンがあったら、次は“香り”で選んでみるのもおすすめです。焼きたての香りは、そのパンの物語そのものです。
SHINTATE BAKE STORE(石川県)
「この麦の味を自分の手で」──信頼できる農家との二人三脚
▲センスが光る店内
SHINTATE BAKE STOREの若井さんが自家製粉を始めたのは、北海道の中川農場の麦に出会ったことがきっかけだった。
「中川さんの麦で作ったパンを食べて、“この味を自分の手で再現したい”と思いました。」
自家製粉で扱うのは中川農場の麦のみ。少量でも質の高いパン作りを続けている。
▲名店にも根強いファンが多い、中川農場の麦を使っている
「マイクロベーカリーだからこそ、生産者と密に関わりたい。
いまは全てのパンに自家製粉麦の発酵種を使っています。」
将来は製粉機をアップグレードし、より自家製粉比率を高める計画だ。
BREAD IT BE(神奈川県)
「粉と向き合うほどに、パンは自由になる」──挽きたての香りが広がる工房から
▲大通りから1本入ったところにあるが、常に人が絶えない
さまざまな粉を組み合わせてパンを作っていたものの、それだけでは物足りず自家製粉を始めたという、BREAD IT BEの森田さん。
挽きたての粉で仕込むパンは、焼き上がりの香りも食べたときの風味も格別。ふんわりと甘く、香ばしい香りが鼻に抜けます。
▲自分の好みの粉は自分で挽いた方が早いのだとか
製粉による生地の微妙な違いを調整する難しさや、余ったふすまの活用など課題もありますが、新たな挑戦も続けています。
おすすめは、秦野産小麦を使った“自家製粉コンプレ”や“BIBバゲット”、“全粒粉食パン”。
どのパンからも、粉の息づかいと森田さんの探究心が感じられます。
自家製粉は、効率的ではありません。
それでも、臼を回す職人たちは言います。
「香りが違う」「粉の表情が違う」「パンが生きている」
小麦を挽く音が響く工房の中には、1つ1つのパンに込められた“物語”があります。
その香りを感じる瞬間、きっとあなたの中にも新しいパンの風景が生まれるはずです。
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